薪く炭くKYOTO
  • 団体概要
  • お問い合わせ
  • サイトマップ
私たちの想い
会員募集 スタッフ・インターン募集更新・イベント情報

勉強会・サロン

TOP < 勉強会・サロン < 薪く炭くKYOTO 第41回勉強会

薪く炭くKYOTO 第41回勉強会

「熱帯林管理のこれから
-ボルネオ島サバ州デラマコットにおける森林認証制度と低インパクト伐採-」

第41回勉強会の様子

開催日時
2008年7月23日(水)19時〜21時
場所
「京都大学北部キャンパス農学部本館フィールド科学教育研究センター小会議室E112 」
講師
今井 伸夫 氏(京都大学生態学研究センター)
内容
温暖化と生物多様性の損失
森林認証制度の概要
ボルネオ島サバ州デラマコットにおける低インパクト伐採導入の効果
参加者
23名(会員9名,非会員14名,学生12名)
案内文
 今回は、世界の中でも最も生物多様性に富むボルネオ島低地熱帯林において、森林の低インパクト伐採導入の効果を検証されている今井伸夫氏(京都大学生態学研究センター)を講師としてお招きし、お話を伺うことにしています。
アジア、とくに東南アジア地域の天然林面積は、ここ数十年で急激に減少を続けています。一部の天然林はナショナルパークや保全区域として開発が制限されていますが、残された森林の大部分は「生産林」として森林施業が実施されていま す。こうした森林には、貴重な生物種や高い生物多様性が保持されているという重要な側面があるため、それらを維持しながら適切な森林利用を実現することが求められています。
ボルネオ島デラマコット森林管理区は、マレーシアで初めて低インパクト伐採を導入し森林認証を受けた地区であり、ここでは低インパクト伐採が地域の生物多様性に与える影響が総合的に検証されています。今井氏は、植物生態学的・生態系生態学的観点から、低インパクト伐採の効果を研究されています。今回の勉強会では、低インパクト伐採導入の効果に加え、より広い話題(熱帯林の生物多様性とその損失、森林認証制度など)を提供して頂くことになっております。

概要

1. 地球温暖化について

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第四次報告では,人為起源の温室効果ガスが地球温暖化の重要な要因であることを明言している.実際,現在の平均気温は1896年から1900年(5年平均値)に比べて0.75°C上昇し,20世紀の間に海面水位は17cm上昇した.しかし,注意して判断すべき点もある.大型ハリケーンの数は,1970〜1980年代に比べて,1990年代以降に増加している.これは地球温暖化の影響であると報道しているメディアもあるが,1970年以前(推定値)と90年以降を比較すると大型ハリケーンの発生頻度は同程度であり,IPCCではハリケーン数と温暖化に明確な関連はないとしている.また,現在地球は温暖期にあると考えられているので,人為活動による気温上昇分を分離することは困難である.IPCCは10〜20個の気候変動予測モデルを平均化して,平均気温の上昇幅を予測した.それによると,1990年に比べて2100年には平均気温が1.1〜6.4°C上昇し,特に北半球の極域での温度変化が大きいと予測されている.

 極域と比較すると,熱帯地域での気候変化は小さいと予測されているが,熱帯地域の生態系に対する影響も想定されている.東南アジア熱帯では数年に一度の割合で,森林を構成する多くの樹種が一斉に開花・結実する現象がみられる.この一斉開花の引き金として考えられているのが,気候要素である低温や乾燥条件である.したがって,全球スケールでの気温上昇やエルニーニョ現象が頻発することになれば,東南アジアの熱帯林で樹木の繁殖が始まらない可能性がある.さらに一斉開花に際しては,多くの昆虫や動物などが,樹木の花・果実といった資源に依存し,急激に個体数を増加させることが知られている.気候変動によって熱帯雨林で一斉開花現象が起こらなくなると,そうした生物にも影響が及ぶのではないかと懸念される.

2. ボルネオ島熱帯林の現状

 ボルネオ島の森林面積率は57%で,そのうちの74%がフタバガキ林,23%が泥炭湿地林である.現在,原生林として保全されている面積はごく限られており,バイオマスの小さい二次林が多い.

 熱帯林の劣化は今なお進んでいる.森林消失のほとんどは森林火災によるもので,他に違法伐採や土地利用転換(オイルパームプランテーションなど)もその原因となっている.カリマンタン地域ではインドネシア政府の指導のもと,大規模な米作地帯を造成するプロジェクト(メガライスプロジェクト)が推し進められた.ここで開発された泥炭湿地林の地下には20mにも及ぶ泥炭層が発達しているため,灌漑によって水位が低下すると,泥炭が森林火災の着火剤となる.実際,1997年のエルニーニョ時に開発途中の泥炭湿地林で大規模火災が発生し,大面積の森林が消失してまった.

 ボルネオ島は多様で希少な動物相をはぐくんでいるが,動物種の70%は木材生産を行う生産林に生息している.したがって,持続可能な森林利用を確立するためには,安定した木材生産と生物多様性の保護の両立が必要である.

3. 森林認証制度の概要

 森林認証制度とは,適切に管理された森林から伐採された木材であることを保証するマークをつけて流通させることによって, 森林の保全を促進する制度である.代表的な森林認証制度として,FSC(Forest Stewardship Council,森林管理協議会) 認証がある.

 FSC認証を取得するためには,FSC10原則に基づいた厳しいチェックを通らなければならない.それらの原則の中には,森林環境を破壊せずに施業が行われているか,先住民や労働者の権利を尊重しているか,持続可能に利益を得られるか,などが含まれている.さらに,FSC認証を取得するためには綿密な森林管理計画を作成しなければならないが,その分FSC認証された材は高値で取引される.

 FSC(FM)認証は個別の経営体,森林所有者単位で認証されるので,日本のように小規模の場合は取得が非常に困難であるという側面もある.

4. ボルネオ島サバ州デラマコットにおける低インパクト伐採

 ボルネオ島サバ州デラマコット森林管理区では,1995年から森林許容量に従って低インパクト伐採(RIL:Reduced-Impact Logging)が実施されており,1997年にマレーシアで初めて森林認証を受けた.RILの枠組みにおいては,立木位置を全てプロットした収穫計画地図(Harvest Plan Map)を作成したり,伐採道路をどこに作るかを綿密に計画したり,木を伐倒する方角も最適化される.各施業ユニットによって伐採量は制限されており,河川流域の急傾斜地では原則として伐採は行われていない.また,伐採の対象となるのは大径木(直径60-120cm)であり,野生生物の餌資源となるような有用樹は伐り残される.他にも,違法伐採を防ぐためにゲートを作り,警備員を常駐させるといった取り組みが行われている.

5. 低インパクト伐採の効果

 低インパクト伐採と森林認証制度の導入により,生物多様性の保全と安定した木材価格プレミアの両立が実現できると期待される.しかし実際には,熱帯地域でこのような取り組みは浸透していないのが現状である.その要因としては,森林管理主体が低インパクト伐採や認証制度を認知する機会が乏しいことに加え,低インパクト伐採が本当に生物多様性・生態系機能保全という点で有効なのかどうかが十分に検証されていないことが挙げられる.

 とくに,気候変動が熱帯林生態系に及ぼす影響や,木材伐出に伴う栄養塩の持ち出しが長期的に森林生態系機能にどのような影響を及ぼすのかについて,予測的に研究を行った例はない.現在の京都プロトコルでは,新規・再植林にのみ炭素クレジットが付加されるため,森林の持つ炭素貯留機能や生物多様性保全機能を評価することが求められている.

 今井氏は,ボルネオ島サバ州デラマコット森林管理区において,強度を変えて伐採を行った森林(低インパクト伐採区と従来区),そして原生林区を対象に,樹木の種多様性と炭素蓄積に関する調査を進めている.これまでの調査によると,森林バイオマスは従来区で100-250、低インパクト伐採区で300-400、そして原生林区で500t/ha程度であり,伐採強度にしたがって森林バイオマスが低下していた.また,樹木の種組成にも伐採強度の違いが表れており,従来区では先駆種であるトウダイグサ科樹木が多く更新していたのに対し,原生林区では林冠を構成するフタバガキ科の樹木の稚樹が多く見られたという.低インパクト伐採区では,フタバガキ科の樹木の多様性・森林構造・更新といった点で,従来区よりも原生林区の状態に近かった.したがって,木材生産と生物多様性の持続的両立を目指す森林管理手法として,従来型の無計画な択伐に比べて低インパクト伐採のような新たな手法の導入が有効であることが示された.

アンケート集計結果

(1人複数回答)

  1. 本日の講演に対するご感想をご記入ください
    • 興味深い内容だった(3)
    • ためになる内容だった(2)
    • FSCについて勉強する気になった
    • RIL(低インパクト伐採)が広がるとよい
    • RILの具体的な調査の様子、シミュレーションが示されていて興味深かった
    • いろいろな知見を教えてもらい、有意義だった
    • 関心のある内容だったので、非常におもしろかった
    • 関連のあるテーマを研究しているので、興味深かった
    • 講演者のテーマについての知識が不足している(一般参加者から500円の参加費をとれるか)
    • 初心者に対しても、分かりやすい内容だった
    • 森林火災の規模と多さが印象的だった
    • 森林の保全と木材生産の両立を目指す活動を知ることができて、興味深かった
    • 生物多様性と木材資源の供給を同時に満たすことの難しさを感じた
    • ディスカッションが盛んでおもしろかった
    • 日本の森林づくりとは関連がないようだったが、一つの世界として学ぶことができた
    • 熱帯林に泥炭湿地が多いこと、そこで森林火災が発生していることが意外だった
  2. 熱帯地域における低インパクト伐採の可能性と課題について、感じたところをお書きください
    • 日本の森林づくりとは関連がないようだったが、一つの世界として学ぶことができた
    • 林業に関する知識はあまりないので評価はできませんが、とてもすばらしい取り組みだと思う
    • サバ州がモデル事業としてFSC認証を行っていることが知れて、面白かった
    • とてもいい取り組みなので、もっと広がってほしい
    • 天然林においてわざわざ木材を伐採する必要はないように思う
    • 認証の質をどのように保証するのか
    • 可能性も課題も山積している
    • 今後の木材資源の需要増加に対して、低インパクト伐採は供給をカバーできるのか
    • 認証材市場の形成、拡大など、課題は多い
    • よくも悪くも経済性に動かされている点は大きい
    • 費用のかかる管理手法なので、モデル地域外でも実用化できるかが課題だと感じた
    • FSCの価値や多様な意義が広く認知されれば、RILが普及する可能性はあると思う
    • 認証取得のインセンティブをどのように作り上げていくか
    • 熱帯地域への導入が進んでいないのは、ただRILが認知されていないだけなのか、そこに利益を生み出すビジネスモデルが見出せないのか
    • RILは、その日本モデルも必要だとおもった
    • RILの経済的な持続性がポイントかと思う
    • なるべく低インパクト伐採が広がるといいと思う
    • harvest mapを作成するのが大変そう
    • 課題も多そうだが、期待している
  3. 勉強会の案内はどこで知りましたか
    • 会のML(2)
    • 発表者からの案内(2)
    • 研究室のML
    • チラシ(3)
    • 友人から
  4. 持続可能な森林利用に関して、今後勉強してみたいトピックや話を聞いてみたい人などありましたら、ご自由にご記入ください
    • マングローブの経済的価値
    • 森林税などのお金では解決できない、新しいライフスタイルの構築
    • ヨーロッパやアメリカでの森林利用についても知りたい
    • 将来的には、生物多様性と木材資源の生産を同時に満たすベストな方法ではなく、ベターの方法でのビジネスモデル(持続可能な落とし所)が一般的になるのか
    • 森林認証制度
    • 日本における森林(林業や環境林)の持続可能性
    • 夏でも薪炭を利用する方法
  5. 薪く炭くKYOTOの活動についてご意見ありましたら、お願いします
    • 第3世界への支援、日本の自然共生に関連する活動を希望する
    • 実際に森に行く活動が広まると良いと思う

勉強会参加者の声

(1)森林経営とFSC認証

 FSC認証が普及することで,生態系の保護と,持続可能な森林経営が両立できて非常に良いことであると思う.ただし,FSC認証が普及した場合もあくまで市場原理が働いていることに留意したい.例えば,FSC認証材から作られたティッシュペーパーやトイレットペーパーを消費者は環境に良いと思って購入するかもしれない.しかし,ティッシュペーパーやトイレットペーパーを,古紙として再利用することはできないので,古紙100%のもののほうが環境に良い,生態系の保護につながるかもしれない.FSC認証材から作られたバージンパルプはティッシュペーパーやトイレットペーパーに使うよりは,普通の紙などのように古紙として再利用可能な製品に使ったほうがよいと思う.しかし,あくまで市場原理にしたがっているので,環境に配慮して再利用可能な製品に使われるとは限らず,消費者が正しい判断をして初めて本当に環境に配慮できると思う.

 また,FSC認証にもデメリットはあると思う.零細な林業家はFSC(FM)認証を取得しにくいので,日本国内の人がFSC認証材を好んで買うようになった場合,外国の森林の生態系は今よりも保護されるものの,国産材はFSC認証を取得していないからという理由で敬遠されかねない.なお,日本の森林は成長量よりも伐採量のほうが少なく,生産余力があり,十分な施業もされていない.よって,日本の人工林を放棄せずに適切に利用することで,外国からの木材輸入量の減少,すなわち外国の森林の保護につながるだけでなく,日本の人工林も健康になると思う.したがってFSC認証を取得していないという理由で,国産材を敬遠し,FSC認証の輸入材ばかり購入することが環境に良いとは言えない.

 FSC認証の良くない点ばかり挙げたが,FSC認証により生態系の保護と木材生産が両立できるのは素晴らしいことである.FSC認証に関してはまだまだ課題も可能性も山積みだと思うので,今後に注目したい.

(2)生物多様性とFSC認証

 生物多様性保護のためにFSC認証材を買う人は日本ではどのくらいいるのかなと疑問に思った.さまざまな動物がかつて住んでいて,今は住みにくくなった生産林が実際にもあると思うが,仮にそういう場所があったとして,そのことで僕の心が傷ついてはいない.これは,その生産林の現状を僕が知らないからというのもあるものの,現状を知っていたとしても,そこまで心が痛まない気がする.環境問題の多くは人間に利害を与えるが,動物が,例えばトキやゴリラが,絶滅したからといって,それほど僕の生活に影響を及ぼさない気がする.FSC認証の利点を生物多様性保護に限って考えるとすれば,このような思考形態があるから日本ではFSC認証が普及していないのではないか.

 なお,勝手な推測ではあるが動物のすみかを確保したいと心の底から思っている人の気持ちの原動力は,人間の利害の問題ではなく,自分自身が動物が好きで,すみかを奪いたくないという価値観なのではなかろうか.FSC認証材の値段が高いとすれば,そのような価値観をあまり強く持たない人は,FSC認証材を買わなくても納得できる.また「地球はみんなのもので,人間は一部を借りているだけ」という主張もあるが,前述のようにFSC認証の利点を生物多様性に限定して考えるのならば,大して人間に利害を与えないので,お金にそこまで余裕がない人がFSC認証材を買わなくても納得できる.以上,生物多様性保護を売りとしてFSC認証材を日本で販売してもあまり売れない理由を考察してみた.

(会員,M. I.)