2006年10月9日(月)
本日の日記担当:寺尾,成田
快晴です。昨日の夕暮れに到着した「ログペンションシンフォニー」の周辺の風景は月明かりでぼんやり判っていましたが、爽快な朝日の中で、周辺の山並みが飛び込んできました。ここはいったいどこなのか一瞬判らなくなってしまう状態。早起き尾崎さんが散歩から帰ってきて現実が戻ってきました。予定どおり、8時半に酒井さんが藤枝の自宅から迎えにきてくれました。今日の予定は、天竜川流域から分水嶺をこえて大井川流域に向かいます。
まず、春野町川上にある酒井さんの会社「オフィスe」へ。 R362沿い、天竜川支流の杉川の河原に張りだすように造成された土地を借りて、酒井さんがログハウスを建てたのは6年前。この土地との出会いは聞きそびれましたが、宿命の地であったのではと思いました。隣にたてられた小屋では、日曜日ごとに朝市が地域の方々で開催され、集落の方々の新しいコミュニティーが育っている様子。お家でつくられた野菜や手作りジャム、菓子、紅茶などを販売しているとのこと。お裾分け野菜を出荷するだけでなく、参加している人たちが工夫をこらした一品づくりを進めておられる由、各地に出来ている観光客相手の朝市とは一線を画してるように思えました。
さて、木工工具とマック、山仕事道具、雑貨と家具がひしめく素敵なログハウスで、我々を待っていたのは、昨晩、藤枝のご自宅で奥さんが焼いてくれた、朝市でも好評なキーウィジャム入りの焼き菓子と、地域の新しい物産に育てる意気込み満載の酒井さん謹製の春野紅茶のおもてなし。手作りの素朴な焼き菓子と青い風味が爽やかな味わいの紅茶が、旅する我々を優しく包んでくれました。このあと更に深まっていく、エネルギーのかたまりのような酒井さんのすごさと、それを可能にしているご夫妻のあり様、人生を楽しむとはかくあるべきという、ドラマを垣間見ました。本当に、ありがとうございます。
余談ではありますが、酒井さんのメールアドレスの一部のanet362は、愛知県豊川市から浜名湖、天竜、春野、川根を経て静岡駅前につながるツーリングコースでもあるR362に由来しているとのこと。ちょうど、ログハウスのあるあたりがその中間点だそうである。
紅茶の香りと朝のまどろみをふりきるように、車を走らせること5分、次の訪問地、「春野木材加工協業組合」を訪れました。国産材を利用したログハウスのパイオニアで、地域の杉材をマシンカットして角ログのログハウスを手がけています。一時、不振な時期があったようですが経営形態を改善して業績を持ち直しているとのこと。従業員10名弱で年間20棟程の実績をあげています。酒井さんから、ログハウスの部材づくりの概要を製造工程の流れに沿って教えていただきました。この事業所からは、バークと端材、円柱加工する際の切削片が発生しています。端材は集落の方々のお風呂用に、切削片は敷き料として家畜用に利用されていますが、バークは未利用のまま、組合関係者の所有山林で土に返しているのが現状とのこと。また、切削片はペレット原料として最適なもので、小規模のペレタイザーを導入することですぐにでも製造が可能な状態です。初期投資を押さえる名案があれば、すぐにでも実現されそうであった。酒井さんも非常に乗り気でありました。
このあと、天竜川水系から大井川水系に向けて峠を越える途中、とある谷筋で止まる。新しい神社を地域で造る企画がはやっているらしく、この地には足洗神社を建立することになっていて谷筋に石積みがつくられている。渓流の水で足を洗ってから、本殿にお参りし、「○○からあしあらいてえ」と祈願をする趣向だそうである。同じような趣向で「貧乏神神社」や「手切れ神社」なども近隣で企画されていて、神頼みによる地域コミュニティづくりが盛んな様子、なんだかんだで楽しんでしまう雰囲気が好ましい。我々も、あやかりたいものである。薪炭神社なんてどうだろうか、心と胆を鍛える御利益がありそうなのだが・・・・。
峠を越えて、大井川筋にでる。大きくうねりながら川幅のあるゆったりとした大河である。川を少しさかのぼり、大井川鉄道の終点である本川根町千頭にある「音戯の里」で次の登場人物、滝英男さんと待ち合わせ。滝さんは、家業の農業・茶業を継ぎながら流木や大木などで造形と具象と楽器を融合した「音具」を製作する作家である。奇妙な縁で毎年、別のグループで開催している「音のワークショップ」にその音具とともにゲストとしてお招きして楽しい交流を続けている。滝さんを形容して「縄文人」という方がいる。自然に根ざして大らかで繊細で大胆な作品からも頷けるものがあるが、その生き様にこそ「縄文人」に相応しいエネルギーが満ちている。
さて、大井川鉄道は、SLの走る路線として人気があるが、SLだけでなく全国の私鉄線を引退したかつての車両が走っていることでも有名である。関西系では、近鉄のドリームカー、京阪特急、南海高野線のシルバーカーなど大阪出身の私にとっては、なんだか非常に懐かしい風景であった。惜しむらくは、時間が合わずにSLに乗れなかったこととSLの汽笛が聞けなかったことか。 新蕎麦の幟のはためくそば屋で昼食。更科系の白く細い蕎麦であった。これも、惜しむらくは関西系のお出しでいただきたかったです。
道の駅にもなっている「音戯の里」は、音あそびをメインにしたテーマパークで、展示館は有料であったが、滝さんの顔パスで我々は無料で入館させていただいた。ありがとうございます。滝さんの造形に、一行は圧倒されました。想像の飛躍をエキゾチックな形に表し、しかも音具としても実用なのが不思議です。
大井川鉄道千頭駅十三時四十分着で、会社の用事で遅れて到着の成田さんをお出迎えし、一行は大井川流域の木材事情を探索して竹炭づくりの現場へ向かいました。
都合により本日から参加のため、ツアー一行を大井川鉄道で追いかけることとなりました。列車の窓からは、大井川の川原で柳の木が秋風にそよぐきれいな光景を眺めることができます。
終着駅へ到着して一同に迎えられると、挨拶も早々に再び車で川沿いを下っていくことになります。どこまでも続く茶畑の景色。なんでも「川根茶」という名茶の産地だそうです。それにしてもポカポカとした太陽の光がいっぱいで、緑がツヤツヤきれいで、豊かな所だなー、と感じます。みかんを始め果物の生産も盛んで、酒井さんのお話では、メロンのハウス栽培に森林バイオマスを利用しようと進めようとしているところだそうです。
途中松本製材さんに立ち寄りました。立木買いをした材を伐採して、製材しています。おが屑は養豚場や堆肥へ、チップはチップ業者へ(製紙用など)、ヒノキの背板は箱屋さんへ持っていっており、余すとこなく木が利用されています。このあたりには昔は多くの製材所があったそうですが、今はわずかしか残っていないとのお話です。どこへ行っても同じような話なものです。
次に遊木舎の滝さんのお宅にお邪魔しました。滝さんはご自分で丸太小屋を建てていて、ステキなお宅は壁に石がついていたり、ガラスがはめ込まれていたり、遊び心がいっぱいです。木は、構造だけでなく棚や柵など内装でも活かされています。
続いて竹炭工房の竹仁さんの炭やき小屋にお邪魔しました。竹仁さんは、脱サラしてご自分で設計された巨大な炭やき窯(4m×3m×1.5m)で炭を焼かれています。炭の用途は調質用から豚の餌(!)まであります。細かい炭に木酢液を染み込ませたものを豚の餌に混ぜると、堆肥が醗酵しやすくなって、コレステロールが減るそうです。特徴を出していかないと炭だけで売るのはなかなか難しいそうで、中国などの海外製品に負けてしまいます。うーむ、こちらからも新用途のアイディアを出せればよいのですが、ムツカシイ。がんばってほしいです。
夜は川根温泉のコテージ泊。そこにはなんと憧れの囲炉裏が!!鍋をつくってみんなでいただきました。でもよい炭が手に入らず、やむなく海外の炭を使いました。こういう ところで地元の炭を使えたらいいのにーーー、と感じます。
宴会後は、酒井さんお手製のおいしい紅茶をいただきました。ぽかぽかの静岡の温かさと酒井さんの笑顔を思い出しながら、おやすみなさい。