木のエネルギーの常識・非常識?
火は危ないし、火事や火傷が心配だ
「火は熱い?冷たい?」
なんて問題が、中学入試で出題される時が来るかもしれません。
火はときに恐ろしいもの。ものを燃やすし、人間だって燃えてしまう。だから、安全には細心の注意を払わなければいけないし、その危険性は獣だって知っています。
では、この数十年で火を扱えなくなってきている日本人はどうでしょう。火の扱い方を知る尊き人類が去っていき、火を見たことのない子ども達が増えている。これってとっても危険なことではないでしょうか。火を使うことが危ないのではなくて、火の熱さや扱い方を知らずに使うことが危険なのです。
木のエネルギーを使うのは、面倒くさい??
スイッチ一つじゃ火はおきません。火をおこすには時間がかかる、毎回燃え具合が違う、時々失敗する、すぐに消えない、煙が臭う、灰やススが飛ぶ、焦げる……これが「火」です。
寒さに縮こまりながら、熱が体に伝わってくるのを待つ時間、優しい木の香りやこうばしい臭いで部屋が満たされていく時、美味しく焼きあがるのをじっと見つめる時間……それらを家族や友人、恋人と共有すれば、かけがえのない時間に変わる。炎を見つめれば、心が裸になって、いつもより本音で話せる。
そんな贅沢な時間や喜びを、人生の中でどれだけ味わうことができるだろう。木のエネルギーには、そんな喜びがついてくる。これも「火」なのです。
木を切ること=森林破壊?
木を切るといえば、熱帯雨林の森の木がバッサバッサと倒される映像を思い浮かべるかもしれません。しかし、木を切るのは悪いことなのでしょうか? 確かに、やたらめったに切りすぎたら動物や昆虫は住みかを無くし、大地は痩せて、もとの森に戻すのが難しい場所もあります。
しかし、日本は雨と暖かさのおかげで森が育ちやすい、ありがたい島なのです。
日本人はずっと、森とのお付き合いが上手な世界に誇るべき賢い森の民でした。昔の人は、とり過ぎてしまったら資源がなくなることをちゃんと知っていたのです。ですから、必要なだけの木を切って、再び成長するのを待つことができました。ちょうどいい具合に切れば、森は若返り成長力が増します。新しい木や椊物が育つことで、色々な生物が住む豊かな森になるのです。
それに、昔の人は木を切るだけじゃなく、使うのも上手でした。
木をエネルギーに料理をし、暖まり、獣を追い払い、お風呂を沸かしました。運びやすくて煙が少ないように木を炭にしたり、効率よくご飯が炊けるようにかまどや七輪を開発。葉っぱはもちろん、自分たちの糞尿までも田畑の肥料にしました。そうした栄養を鳥たちが再び山へ運び、栄養や資源は山から里へ、川から海へ、そして再び山へ、ぐるぐると回していました。
木のエネルギーが、ずっと使っていけることを知っていたのです。
今、私たちは森との付き合いをやめて、安い海外の木や、木以外のエネルギーに心変わりしました。すると、燃料を取っていた森は、木が大きくなりすぎて切るのが難しくなってしまったり、歳を取った木が病気にかかるようになってしまったのです。
家をつくるために育てていた森は、暗くなって動椊物が住めなくなりました。間引かれずにもやしのようになった木は、倒れやすくて災害が起こりやすくなり、雨水も蓄えられません。
私たちの周りの森は、使ってもらわれずに余っている…。その一方で、私たちのために木を切り出し、森を失い、水上足が起きている国もあるのです。
少しくらい、日本の森との素敵な関係をとり戻したはないですか?
木のエネルギーだけじゃ足りない
今私たちが使っているエネルギーは、木のエネルギーではとうてい賄うことができません。というのも、私たちは便利で快適なのが大好きだからです。
車のアクセルを踏むだけで移動したい、なるべく大きな画面でテレビを見たい、喉が渇けばすぐ自動販売機でジュースを飲みたい、お皿は勝手に洗ってほしい、ドアは近づけば開くのが当たり前、部屋は度刻みで好みの温度にしたい、トイレでお尻だって洗って欲しい…
驚くなかれ、人口3000万人を抱えた江戸時代の人たちは、明治時代になって石油や石炭の電気が使われるまで、木のエネルギーだけで賄っていました。
でもいまやエネルギーは、海外のガスや石油、危険を伴う原子力頼みです。日本のエネルギー供給量は、1955年から1990年のあっという間におよそ8倊に増えました。海外の石油・石炭・ガスは奪い合いですから、戦争も起きますし、そもそも弱い国には行き渡りません。
その燃料を掘って、日本に運んでくることにもエネルギーをたくさん使います。時には危険が伴い、事故も起きます。
そんなエネルギーも、今のように使っていけば近い将来に枯れてしまうのです。あなたの孫が、そのツケを払わないといけないかもしれません。エネルギーを安全に末永く使うには、技術の進歩に頼るだけでは上安。太陽の光や熱、風、そして木。なるべく自分達の近くにある自然のエネルギーを、自分達の手で作っていかなければならいないのです。
木を燃やすと、CO2(二酸化炭素)が出て温暖化が進む?
木には炭素が含まれているので、燃やせば石油や石炭、ガスと同じようにCO2が出ます。だから、木も燃やせば温暖化の原因の一つになります。
石油やガスと違うのは、木は数十年で育つことと、育つときにCO2を再び吸ってCO2を木に蓄えることです。だから、大気中のCO2を増やすことはありません。石油や石炭は生き物の化石でできた燃料なので、できるまでに何億年もかかります。ずっと貯めてきたこの燃料を、この数十年で一気に燃やし続けているのでCO2が大気中に増えて、地球温暖化がおきるのです。
石油を一切使わない!といきなり生活を変えることは難しいですが、少しずつ変えていかなければならない、そんな状況なのです。それでもどんどん使いたい人は、また数億年待つことになるのです。
家で火は燃やせるか
囲炉裏(いろり)や火鉢などの昔の道具は雰囲気があって、家族や友人と囲めばほっこりする…こんな道具をリビングやダイニングに置くのは素敵だけれど、なかなか家が許してくれません。昔の家は、屋根から煙を逃がしたりしましたが、最近の家は気密性が高いため煙が逃げにくいのです。
そこで、煙が気になる人に「薪ストーブ《はどうでしょうか。「時計型ストーブ《などの旧来型のストーブは、室内に煙が漏れてくることもありますが、欧米の薪ストーブは高性能で、密閉性が高く、燃焼した空気は全て煙突から室外へ出すことができます。それに、触媒を使って完全に薪を燃やしきるので、上手に使えば煙の量はとても少ないのです。
しかしながら、こうした薪ストーブは高価格で煙突をつける必要があります。それに、掃除や燃料をくべるのが面倒なんて人もいるでしょう。
では、煙突がいらないペレットストーブはどうでしょう。電気制御で、着火がスイッチで簡単にできるものもあります。施設であれば、チップボイラーでお湯を沸かしたり床暖房をしたりすることも可能。昔のように大変な思いをせずに、木のエネルギーを現代の暮らしに合わせて使える時代が実現しつつあるのです。
それでも家で火を燃やす機会に恵まれない人は、週末に庭先や野外で七輪を楽しんではどうでしょうか。
自分のできる範囲で、暮らしの中に木のエネルギーのぬくもりを取り入れていくことができます。
欧米では、薪・ペレットストーブや暖炉が家の中心であり、なくてはならない役割を果たしています。木のエネルギーを使うのを途中で止めてしまった私たちは、高性能のエアコンや電子レンジを選び、囲炉裏の代わりにテレビを家の中心に据えた。どちらが贅沢なのか…よく考えてみてください。